前年度、新規P-キラルジホスフィンオキシドを設計合成し、それらが鉄を用いる触媒的不斉DIels-Alder反応の有効な不斉配位子となることを見いだした。今年度はこのP-キラルジホスフィンオキシドを用いる新たな展開として新奇な分子集合体の合成を目的とした研究をおこなった。 ホスフィンオキシドは、ルイス塩基としての性質を有している。そこで、ホスフィンオキシドに対して酸を加えることによって酸-塩基相互作用に基づく水素結合ネットワークが構築可能であると考えた。 実際に、ビス(1-アダマンチルメチルホスフィノ)エタンに対して1当量のテトラフルオロホウ酸を加えたところ、結晶化をおこなう条件によって直線状。環状の二つの異なった自己集合体が得られることを見いだした。まず、塩化メチレン-酢酸エチルで再結晶をおこなうと直線上に水素結合のネットワークを持った分子集合体が得られることが、単結晶X線構造解析、ESI-MS分析をおこなうことによって明らかとなった。一方、クロロホルム-酢酸エチルで再結晶をおこなうと環状に自己集合した構造体が得られることが単結晶X線構造解析、ESI-MS分析の結果より明らかとなった。 さらに、これらを用いて不斉プロトン化反応をおこなったところ生成物のエナンチオ選択性は自己集合体の構造によって大きく異なることが見いだされた。すなわち、直線上の自己集合体を用いた場合には高いエナンチオ選択性で生成物が得られるのに対して環状の自己集合体の場合には得られる生成物はほぼラセミ体であった。このように基となるホスフィンオキシドは同じにもかかわらず自己集合の形によって不斉有機能が大きく異なるという結果は極めて興味深いと言える。
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