研究概要 |
本研究では,生体内の酸化還元反応(電子移動反応)のモデル化と機構解明を目的として,新規水溶性セレン試剤の開発とそれを用いたタンパク質のフォールディング実験を計画した。平成11年度は当初の計画通り,独自に合成した5員環セレニドと6員環ジセレニド(DTTのセレン体)の化学的性質を明らかにするとともに,これらを用いたウシ膵臓リボヌクレアーゼAのフォールディング研究を行った。まず,これらの水溶性セレン試剤のX線構造解析を行い,分子構造の特徴を明らかとした。また,DTTとの反応や触媒活性の測定から,これらの試剤の酸化還元試薬としての特性を明らかとした。その結果,これらは酸化剤または還元剤として高い反応性を示し,従来のイオウ試剤とは大きく異なる化学的性質を有することがわかった。[構造有機化学討論(浦和),日本化学会秋季年会(札幌)にて発表]。次に,これらの試剤とタンパク質との反応を種々の条件で検討した結果,これらがタンパク質に存在するSS結合の還元(切断)や酸化(形成)を瞬時に行い,しかも定量的に行うことが明らかとなった[ヘテロ原子化学討論(岐阜)にて発表]。このことは,タンパク質のフォールディング実験を従来とは大きく異なる条件で行える可能性を示しており,これらのセレン試剤を用いることによりタンパク質フォールディングの新たな側面が明らかとなる可能性を示唆している。タンパク質フォールディングの問題は,ゲノムプロジェクトとも大きく関わっており,この点でも本研究の研究成果が少なからず役に立つものと考えられる。現在,これらの新規水溶性セレン試剤の化合物特許を出願中である。
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