本研究では、水溶液中での超音波照射によるヒドロキシラジカルの発生に起因する官能基の多彩な変換反応を利用し、超音波照射をトリガーとした生体内での分子集合制御を行う新機能分子の開発を目的とする。本年度は以下の成果及び新たな知見を得た。 1.DNAインターカレーターにチオール官能基群を組み込んだ新機能性分子の開発: ジアミノアクリジンを用い、末端にチオール類を持つ側鎖或いは骨格を導入した新機能性分子の合成的研究を行った。水溶液系での使用を考慮し水溶性を保つには、アミド結合を用いて各部分を結合する合成法が有効であることが判明した。その知見に基き、ジアミノアクリジンに長さを変えた各種炭素鎖をアミド結合させ、p-トルエンチオールを両末端に導入したDNAインターカレーターの合成に初めて成功した。この過程で、新機能分子群の系統的合成では、芳香族ジチオールやチオール安息香酸を用い、保護基としてベンゾイル基を用いた合成経路が最良であることがわかった。以上の成果により、新機能分子の合成開発の手法が確立された。 2.新機能分子実用化のための水溶液中でのチオール官能基の反応機構の解明: 新機能分子の将来の実用化のため、従来報告例のほとんどない水溶液中でのチオールの超音波照射反応過程の解明が不可欠となった。そこでアリル及びアルカンチオールを用い、含水均一系や二層系でその酸化・分解反応過程を検討した。含水イソプロパノール中では、水分量の増加とともにアリルおよびアルカンチオールでは全く異なる挙動を示した。例えば、トルエンチオールでは、水分量が増加しても60%程度でその消費速度の増大はほとんど見られなくなるが、ヘプタンチオールは溶解度の限界点付近で急激に消費速度が増大し、その前後で3倍近くまで加速されることが明らかになった。この知見は、アルカンチオールでもあるタンパク質中のシステインの超音波照射による損傷が官能基周辺の水分量に大きく影響されることを示す重要なものであり、この分野での全く新しい知見である。
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