研究概要 |
本研究では、申請者らがこれまで種々の高周期典型元素多重結合の速度論的安定化に応用してきた有用な立体保護機である2,4,6-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル(Tbt)基による安定化の研究対象を、遷移金属を含む二重結合まで拡張することを目的とする。平成11年度の研究において、具体的な研究対象化合物として従来研究例のほとんどない三配位のジルコニウム-16族元素間二重結合化学種(Tbt(R)Ti=S)を選び、これらの化学種の合成について検討を行った。しかしながら検討の結果、ジルコニウム-炭素結合は非常に弱く、ジルコニウム上にTbt基を導入した化合物は極めて不安定であることが明らかとなった。そこで、平成12年度の研究においては、遷移金属を含む二重結合化学種として、全く合成例のない化学種である白金-16族元素二重結合化合物を選びその合成について検討を行った。白金と同じ10族金属であるニッケルと硫黄の二重結合化合物は石油精製の重要な過程である水素化脱硫反応の反応中間体として提唱されており、目的の二重結合化学種は非常に興味深い化学種である。Tbt基を有するリン配位子が配位したジクロロ白金錯体[(TbtMe_2P)_2PtCl_2]をリチウムナフタレニドを用いて還元を行うことにより白金0価錯体を発生させ、単体硫黄と反応させたところ、白金-ジスルフィド錯体1[(TbtMe_2P)_2PtS_2]が得られた。1は新規な環構造であるPtS_2環を有しており、その構造、反応性に興味が持たれる。1のX線構造解析を行い、その興味深い構造を明らかにした。今後、1の脱硫反応を行うことにより、白金-硫黄二重結合化合物の合成について検討を行う予定である。また、この手法は10族金属であるニッケル、パラジウムの系においても適用可能であると考えられ、本研究のさらなる発展が期待できる。
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