研究概要 |
筆者らの研究室では従来の合成法とは全く異なる新しい合成戦略によりタキソール不斉全合成を1997年に達成した。本研究ではここで明らかにしたタキソール全合成法における全反応工程(約60工程)の短縮および全収率の向上を目的として検討を行った。 すでに報告したタキソールの不斉全合成法においては鎖状ポリオキシエステルからα-ハロエチルケトンへの変換に7工程の反応が必要であったが、ここで新たに1,1-ジクロロエチルリチウムを用いるエステル類のアルキル化反応を開発し合成ルートの大幅な短縮を図った。まず、予備検討として1,1-ジクロロエタンとLDAまたはnBuLiから調製される1,1-ジクロロエチルリチウムを安息香酸メチルに作用させたところ、第三級アルコールを副生することなく対応するα,α-ジクロロエチルケトンが高収率で得られることが明らかになった。また、2-メチルヒドロシンナム酸エチルに対して1,1-ジクロロエタンとLDAから調製される1,1-ジクロロエチルリチウム(2等量)を作用させるとα,α-ジクロロエチルケトンが得られた。一方、このエステルに対して1,1-ジクロロエタンとnBuLiから調製される1,1-ジクロロエチルリチウム(4.2等量)を作用させるとα-モノクロロエチルケトンが収率良く得られるという興味深い知見を見い出した。 以上の検討によって求められた最適条件下でタキソール合成中間体であるポリオキシ鎖状エステルに対して上記の反応を試みたところ、予期したように目的のα-モノクロロエチルケトンが高収率で得られることが明らかになり、これによりタキソール合成中間体を調製する簡便で有用な新しい手法を確立することができた。次年度はここで見い出した手法に基づきタキソールの合成中間体を大量に合成し、タキソールそのものあるいはその類縁体を実用的に得る方法の確立を目指して検討を続ける計画である。
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