研究概要 |
多座配位子bpca=(Hbpca=ビス(2-ピリジルカルボニル)アミン)を含む単核錯体[Fe^<III>(bpca)_2]^+を錯体配位子とする混合原子価鉄三核錯体および混合原子価鉄一次元鎖状錯体を合成し、その構造と磁気的性質を明らかにした.これらの錯体はいずれも黒色で,可視領域に非常に強い吸収を示す.この吸収は,錯体配位子とその配位を受けた鉄(II)イオン間での電荷移動に基づくものと考えられ,混合原子価鉄イオン間での価数揺動の可能性を示すものである.磁化率の測定より,隣接する鉄(III)-鉄(II)イオン間に反強磁性的な相互作用が生じていること,一次元錯体は極低温におけるフェリ磁性的な振る舞いを示すことが明らかになった. 研究の過程において,μ_3-オキソ架橋鉄(III)三核クラスター骨格を有するクラスター配位子[Fe_3(μ_3-O)-(bpca)_2Cl_4(OEt)_2]^-の合成に成功した.クラスター配位子は最大四座の配位子として働くことが可能であり,自らが三つの鉄(III)イオンを包含することから,高次の集積型金属錯体の合成素子として極めて有効である.二つのクラスター配位子と鉄(II)イオン一個よりなる混合原子価鉄七核錯体の合成とその磁気的性質の解明に成功した.この錯体は黒色を呈しており,分子内での電子移動の存在を示唆している.また,極低温においてS=6の大きな基底スピン多重度を有していることを明らかとなった.
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