研究概要 |
遷移金属とケイ素の間に二重結合をもつシリレン錯体は、ヒドロシランの脱水素縮合あるいは有機ケイ素化合物での置換基の再分配等の触媒反応における重要な仲間体と仮定されており、その反応性には興味が持たれる。本研究では、ヒドロシランと炭化水素の脱水素縮合反応へ、シリレン錯体の特異な反応つまりアルキル配位子のシリレンケイ素への1,2転位反応を応用しようと試みた。このシリレン錯体上での転位反応を、密度氾関数法を用いた分子軌道計算により検証した。その結果、メチル(シリレン)錯体からメチル配位子のシリレンケイ素への1,2転位により、メチルシリル錯体生成が生成するための活性化エネルギーは+2.6kcal/molであり、この炭素-ケイ素結合生成反応は極めて穏和な条件で進行することがわかった。 本研究では、これまでイリジウム錯体における支持配位子として5員環キレートを形成する(2-ホスフィノエチル)シリル配位子を用いてきた。キレート配位子のbite angleを調整することによりイリジウム錯体の反応性を制御する試みとして、4員環キレートを形成する(ホスフィノメチル)シリル配位子をもつイリジウム錯体の合成を検討した。その結果、(ホスフィノメチル)シリル配位子を一つあるいは二つもつイリジウム錯体の合成と構造解析に成功した。X線構造解析の結果、イリジウムに配位子した(ホスフィノメチル)シリルにおけるbite angleは(2-ホスフィノエチル)シリルと比較して、約15°小さくなっていることがわかった。今後、このbite angleの変化が、炭素-水素結合活性等の反応性に与える影響を明らかにし、シリレン錯体を経由したヒドロシランと炭化水素の脱水素縮合反応における最適化された触媒を開発していく予定である。
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