研究概要 |
本年度は、シクロヘプタトリエン(CHT)を縮合した2種類の新規なテトラアザポルフィリン(TAP)(D-TAPとT-TAP)の合成と酸化剤添加時のスペクトル変化について解析を行った。D-TAPとT-TAPは、それぞれ1,6,7-triphenyl-3,4-dicyanocycloheptatriene、1,6-diphenyl-3,4-dicyanocyclo-heptatrieneより常法に従って合成した。これらの化合物は酸化的芳香化の際にH^-を脱離する7位(CHTにおける位置番号)の炭素原子が2級(D-TAP)、または3級(T-TAP)という点で異なる。D-TAPとT-TAPは電子吸収スペクトルは、ほぼ同一の形状を示し、またフタロシアニンやTAP同様のソーレ帯、Q帯に相当する吸収帯が見られた。 D-TAPまたはT-TAPのクロロホルム溶液に酸化剤としてDDQを添加したところ、期待どうりのスペクトル変化が見られ、Q帯が広幅化すると共に長波長側にシフトした。酸化後においてもD-TAP,T-TAPのスペクトル形状は酷似していたが、その変化の速度は大きく異なり、D-TAPはDDQの添加で室温下、瞬時にスペクトルが変化したのに対し、T-TAPは大過剰のDDQを用い、加熱することで初めてスペクトル変化を示した。この結果は観測されたスペクトル変化がCHT部位の変化に基づくことを示している。さらに、D-TAPに対して1当量のDDQを添加するまでのスペクトルが連続的にかつ等吸収点を保ったまま変化した事から、D-TAP,T-TAPの4個のCHT部位のうち1個が酸化されている事が判明した。今後、更にESR、MCD、電気化学測定による解析を行い、より詳細な機構の解明を目指す。
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