研究概要 |
多核の有機遷移金属錯体は、単核の錯体にない特性をもつため近年注目されている。そこで、目的の多核錯体やポリマー錯体を合成するための汎用性のある素反応を開発することが、重要な課題となってくる。本研究では、リン原子を環に組み込んだ高歪環状フェロセンを用い、開環反応を利用することによって多核化およびポリマー化を行う。 本年度は、有機遷移金属錯体ポリマーの合成を中心に研究を進めた。その結果、高歪み環状フェロセンとしてリン架橋[1]フェロセノファン(1,1'-ferrocenediyl)phenyl-phosphine(fcppと略)が、光照射により重合することを見いだした。さらにこれを配位子にもつ錯体Cp(CO)_2Mn(fcpp)および(CO)_5W(fcpp)を合成し、同様に光照射を行うと分子量分布が最大で2万・平均で3000程度のポリマーが得られた。リン架橋[1]フェロセノファンのポリマー化法としては、既に a)熱反応による重合、b)アルキルリチウムを開始剤としたリビングアニオン重合、c)金属錯体触媒を用いた重合が知られていたが、何れの方法も有機遷移金属錯体に配位したリン架橋[1]フェロセノファンには、適用できなかった。本研究では見出した方法は、温和な反応条件でしかも10分間の光照射により反応が完結した。さらに、リン化合物は、配位子として種々の金属錯体に結合することができるので、この反応は、幅広い有機遷移金属錯体に適用可能であると期待できる。
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