希土類金属イオンの溶媒和に関する直接的な知見を得るという観点から、Gd(III)のDMF-DMA混合溶媒和物のX線結晶構造解析を行ったところ、非常に興味深い結果を得た。すなわち、Gd(III)の混合溶媒和物はDMF4分子とDMA4分子の計8分子によって溶媒和されていた。立体障害の大きなDMAがDMFと同数溶媒和することやDMA分子が歪んで配位することは、予想に反し、非常に興味深い。この結果はこのような溶媒和構造が溶液中でも保持されているのかといった新たな問題を提供した。 そこで、RamanスペクトルによりDMF-DMA混合溶媒中の希土類金属イオンの配位数を調べた。イオン半径が比較的大きなNd(III)の場合、DMAモル分率が0.8付近で配位数の低下が起きることがEXAFSにより明らかになっている。Ramanスペクトルの解析により得られたDMF及びDMAそれぞれの配位数からはDMFが選択的に溶媒和することが明らかになった。また、DMFとDMAがほぼ同数溶媒和するDMAモル分率は配位数が低下するモル分率に比べ低下していた。すなわち、DMA分率が増加すると、その立体障害を緩和するためDMFが選択的に溶媒和するものの、DMFと同数程度のDMAが溶媒和するとDMFの選択的溶媒和だけではもはや立体障害を緩和できず配位数の低下を引き起こすことが明らかになった。さらに、イオン半径の小さなGd(II)、Tm(III)についてもRamanスペクトルによりDMF-DMA混合溶媒中での配位数を求めた。いずれもNd(III)と同様にDMFが選択的溶媒和をしており、DMFと同数以上のDMAが溶媒和するようになるDMAモル分率では配位数の低下を起こす。 以上のX線結晶構造解析やRamanスペクトルの結果を踏まえ、来年度はLAXSによる非水混合溶液中の希土類金属イオンの構造解析へと研究を展開するため、今年度は広角X線散乱(LAXS)による溶液中の希土類錯体の構造決定を優先させた。このため、LAXS測定および解析のための非水溶液試料保持システムとLAXS解析プログラムの開発を行った。
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