本年度は、フォトクロミックロタキサン化合物合成の第一段階として、水中でシクロデキストリン空孔内へのフォトクロミックジアリールエテン誘導体の包接を検討した。両末端にトリメチルアンモニウム基を有するジアリールエテン化合物の開環体をシクロデキストリン水溶液中に加えると、β-シクロデキストリンを用いた場合には光反応活性なアンチパラレルコンフォメーションが、γ-シクロデキストリンを用いた場合には、光反応不活性なパラレルコンフォメーションが優先的に取り込まれることが明らかとなった。これは、γ-シクロデキストリンの空孔がβ-シクロデキストリンの空孔よりも大きいため、ジアリールエテンが折り畳まれた状態で包接されることが可能であるためと考えられる。これらの結果より、末端にトリメチルアンモニウム基を持ったジアリールエテンはβ-シクロデキストリンの空孔中に取り込まれることによって、光閉環反応の量子収率が向上し、一方、γ-シクロデキストリン中に包接されることによって光閉環反応の量子収率が低下することが明らかとなった。即ち、シクロデキストリンという外部刺激を加えることによって、フォトクロミック反応の量子収率をコントロールすることが可能になった。以上のことから、ジアリールエテンのトリメチルアンモニウム置換体をフォトクロミックロタキサンの「軸」として用いる場合には、「輪」としてβ-シクロデキストリンを用いる必要があることがわかった。
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