負のナノグラファイトの電子構造を調べるための準備として、閉じた正のナノグラファイト系の電子構造を調べた。具体的には、zigzag端とarmchair端の両方によって囲まれた長方形のナノグラファイトをモデルとし、閉じたナノグラファイト系における端の干渉効果を調べた。一次元グラファイトリボンの研究で明らかになったように、zigzag端はフェルミ準位近傍で特異なエッジ状態を示すが、armchair端はそのようなπ電子局在状態を示さない。zigzag端における連続エッジサイト数zとarmchair端における連続エッジサイト(2個1組)数aとをそれぞれ変化させて、系のネットワークトポロジーと電子状態との関係を調べた。その結果、長方形のナノグラファイトでは、z>3、a>5程度の大きさからエッジ状態が現れることが明らかになった。比較的小さな系においてはarmchair端に特徴的な金属/半導体の周期性が残るものの、z>5程度ではHOMO-LUMOギャップの大きさがaに対して指数関数的に減少し、フェルミ準位近傍の電子状態がzigzag端由来のエッジ状態によってほぼ完全に支配されていることが明らかになった。 また、実際の系において重要になるであろうダングリングボンドの効果を調べるために、端の水素終端が完全に失われたzigzagリボンの電子状態を局所密度近似に基づく第一原理計算の範囲で詳細に調べた。その結果、フェルミ準位近傍でダングリングボンド状態がエッジ状態と共存するものの、系の平面性は全く失われず、その帰結としてエッジ状態はダングリングボンド状態によってほとんど影響を受けないことが明らかになった。
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