電子線照射などによって形成された負のナノグラファイトでは、直径500nm程度までの比較的小さなものの形がほぼ円形であると推測されている。そこで今年度は、円形をした正のナノグラファイト(ナノグラファイトディスク)をモデルとし、フェルミ準位近傍の電子状態、特にzigzag端に由来するエッジ状態の出現に着目して、最近接近似の分子軌道法による検討を行った。モデルとなるナノグラファイトディスクは、ディスクの中心が6員環の中心にあるもの(ring-center)と、ディスクの中心が炭素原子上にあるもの(site-center)との2通りを考え、C-C結合長単位でディスク径を広げて、半径10nm程度の大きさまでの範囲を系統的に調べた。 ナノグラファイトディスクでは一般に、端の形状がzigzagとarmchairの混合になる。エッジ状態の出現には「端のzigzag度」とディスク径の2つが関わると予想されるので、端のzigzag度を表す指標をいくつか考え、ディスク径を変化させたときのエッジ状態の変化を最も良く表す指標を探した。エッジ状態の大きさを表す指標としては、1)HOMO-LUMOギャップおよび2)フェルミ準位での状態密度のピーク高を用いた。外周に現われるzigzagサイトの総数を指標に用いると、ディスク径の変化によるエッジ状態の変化を十分に記述できない。これは、同数のzigzagサイトからなる長いzigzag列と短く分断されたzigzag列とが区別されないためである。検討の結果、左右2つの列に分断されたzigzagサイトに対してエッジ状態への寄与を1/2とした指標を用いると、エッジ状態の大きさとの良い相関が得られることがわかった。また、ディスク最外層からの距離を重みとして取り込んだ指標を用いると、エッジ状態の大きさとの相関がさらに改善されることがわかった。
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