本研究では、安定有機ラジカル分子に自己組織化能を付与し、さらに集積過程で磁気的相互作用の経路が同時に形成されるような分子システムの構築を目的とした。具体的には、水素結合に着目してニトロニルニトロキシドの2位にイミダゾール複素環構造を導入した誘導体を新規に合成し、分子集合体中における分子配列様式が磁気特性に及ぼす影響を検討した。 1 NH水素結合サイトを有するベンズイミダゾール(BIm)含窒素複素環を導入したニトロニルニトロキシド(NH)としてモノアザベンズイミダゾール体(Im[b]Py-NN、Im[c]Py-NN)およびジアザベンズイミダゾール体(Pu-8NN)を新規に合成した。良質な単結晶が得られたIm[b]Py-NN、Im[c]Py-NNに関してはX線構造解析を行った。Im[c]Py-NNでは多形(α、β、γ相)が見られ、3つの水素結合様式が確認された。ラジカル分子をつなぐNH部位の赤外伸縮振動に対応する吸収パターンと振動数と分子間の磁気的相互作用の間には相関性が見られた。 2 SQUID磁化(率)測定(1.8〜300K)では、Im[c]Py-NN(α相)では、分子間に強磁性的相互作用が存在し、Im[c]Py-NN(β相)、Pu-8NNでは、反強磁性的な磁気カップリングが見られた。いずれも一次元磁性鎖モデルに従う低次元磁性体であることがわかった。一方、磁気軌道が離れたIm[c]Py-NN(γ相)は孤立した2重項状態に対応した挙動を示した。 3 極低温下での交流磁化率測定を行い、Im[c]Py-NN(α相)が1K付近で強磁性転移することを見出した。磁気転移温度以下での磁化のヒステリシス曲線より保磁力は130Oeと大きいことがわかり、これまでの有機強磁性体とは異なる特性を有することがわかった。 以上より、分子間水素結合を駆動力としてラジカル分子を集積し、分子強磁性体および高スピン分子集合体を合理的に構築するための方法論を見出すことができた。
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