研究概要 |
従来は頂点酸素の存在しない系でのみ可能とされてきた電子キャリア型超伝導体について,新たに頂点酸素の存在する系で非平衡相としての合成を目指し,Bi系酸化物高温超伝導体を中心にいくつかの系について,電気化学反応を用いたLiのインターカレーションと酸素ゲッターアニールによる酸素量制御の2つの手法を検討し,以下の点を明らかにした。 1.Bi-2212相を中心として,Bi-2201,またBi系以外のLa214,Nd214などの系についても2つの手法の適用を検討してきたが,本研究で用いた反応系では電子キャリアを有するまでには至らなかった。La214系やNd214系と比較して,Bi系は多量のLiの導入は可能であったが,Cuの平均価数は最も低いものでも2以下にはならないことが判明した。 2.電気化学反応によるLiのインタカレーションでは,これまで結晶構造中のLiの占有サイトに関しては不明であった。電気化学反応と固相反応を組み合わせてLi導入による構造・物性の変化を検討した結果,両反応で結晶構造中のLiの占有サイトが異なることを示唆する結果を得た。 3.Bi-2212相にLiを過剰に導入し,超伝導性を示さなくなった領域の詳細についてはこれまで不明のままであった。Cuの平均価数評価の結果からはホールの減少により反強磁性絶縁体へと変化したと推測していたが,反応に伴う結晶性の低下の影響やCUO_2面への置換等の可能性も否定できなかった。今回NMR測定により反強磁性磁気共鳴が観測され,ホール濃度の減少による反強磁性秩序の形成が超伝導性の消失の原因であることを明らかにした。 結果としては,電子キャリア型超伝導体の合成には至らなかったが,電気化学反応によるホールキャリア型超伝導体から反強磁性絶縁相までの変化とLi導入の構造・物性に対する影響について,詳細を明らかにした。
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