本年度は、幾つかのナフタレン誘導体によるモデル化合物を合成し、蛍光性化学センサーとしての有用性について検討した。測定は、極性溶媒であるアセトニトリル中で行い、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムの過塩素酸塩或いはチオシアン酸塩を添加し、蛍光変化を調べた。また、モデル化合物によっては、亜鉛、銅、鉛のチオシアン酸塩及びヨウ化カドミウムも添加し、蛍光変化を調べた。その結果、幾つかの知見を得た。1-ナフトエ酸或いは2-ナフトエ酸とp-シアノ安息香酸、1-ナフトエ酸とm-シアノ安息香酸を種々の長さのポリエーテル鎖とエステル結合でつないだ系では、スペーサーがペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコールの場合に、カルシウム、バリウムイオンに対して大きな蛍光変化(ナフタレン由来の発光の減少とエキサイプレックス発光の増大)が観測された。一方、長さの異なるアミノプロピルエーテルの両末端に1-ナフトエ酸をアミド結合でつないだ系では、カルシウム、バリウムイオンに対しても蛍光変化が見られるものの、マグネシウムイオンに対して一番大きな蛍光変化を示すことがわかった。また、モデル分子の配座についても、理論計算により検討した。その他、配位に関与する原子として分子内に硫黄原子や窒素原子を持つ系についても合成し現在、アルカリ金属、アルカリ土類金属イオン以外の金属イオンに対する認識能の有無について検討しているところである。今後は、本年度得られた結果を基礎に、これらのモデル化合物への水酸基の導入、糖との結合、シクロデキストリンとの併用等により、生体分子、イオンのおかれている環境に適応した水溶液中でも十分使用可能なセンサー分子へと改良を加えていく予定である。
|