研究概要 |
インシュリン情報伝達系に基づく生理活性物質の化学選択性を評価するための分析法の開発を行った.(1)インシュリン情報伝達過程のチロシンリン酸化を可視化する蛍光プローブ分子を開発した.インシュリン(Ins)がそのリセプター(IR)に結合すると標的蛋白質IRS-1のチロシン残基をリン酸化する.リン酸化IRS-1はその標的蛋白質であるPI3-kinaseに結合しその活性を制御する.IRS-1のチロシンリン酸化部位を含む合成リン酸化ペプチドpY939とPI3-kinaseのSH2N蛋白質を,それぞれテトラメチルローダミン(T)とフルオレセイン(F)で蛍光標識した(T-pY939,F-SH2N).F-SH2N―T-pY939錯体形成によるドナーFとアクセプターTの相互近接により,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が誘起された.培養細胞から抽出したIR,Y939ペプチド及びFRETpairを含む溶液にInsを添加すると濃度依存的にFRETpairが解消した.このFRETpairはインシュリン情報伝達のリン酸化を可視化する蛍光プローブ分子となることが分かった.(Anal.Chem.71,3948(1999)) (2)表面プラズモン共鳴(SPR)法によるインシュリン情報伝達過程のアゴニスト選択性評価法を開発した.InsとIR及びその基質となるY939を一定時間反応させ,SH2N蛋白質を添加した溶液を,pY939を固定化した金薄膜表面上にフローセルを用いて一定時間流したところ,Ins濃度に依存したSPR応答を得た.Ins様作用を持つIGF-I,IGF-IIはIRを介した情報伝達系を活性化するが,4価バナジウムイオン,チアゾリジン系糖尿病治療薬はSPR応答変化を示さないことからPI3-kinase以降の情報伝達系に作用していることが分かった.(Anal.Chem.72,6(2000))
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