本研究では、海草藻場の空間構造の変動に対する海草の栄養生長と種子繁殖の効果を、定量調査、野外追跡実験およびモデル解析により明らかにすることを目的とする。本年度は下記の項目について成果が得られた。 1:海草藻場の空間構造の定量的解析:岩手県船越湾と大槌湾のアマモ属複数種の海草からなる海草藻場において、各種の空間構造を定期センサスにより明らかにした。両藻場とも、浅いところにアマモが、深いところにタチアマモが優占したが、船越湾では両種の分布が重なる部分が多かった。この混合帯では、春から秋にかけてアマモの急激な減少が見られたが、タチアマモの分布は変化しなかった。この違いは、水柱における海草二種の葉の垂直分布の相違と夏季の透明度の減少の相互作用の結果生じたことが判明した。 2:海草の栄養生長と種子繁殖の相対的重要性の解析:標識追跡法により求めた海草二種の栄養生長量は、夏季に最大になり冬季に最少になる明確な季節変動を示した。同じ水深の比較では、タチアマモの生長量がアマモより高いことが明らかになった。二種の種子繁殖は6〜8月にかけて観察された。種子生産量はアマモの方が著しく高かった。以上より、個体群の維持拡大に関しては、アマモは種子繁殖が、タチアマモは栄養成長がより重要であることが考察された。 3:種子繁殖に対する動物による食害の効果:海草の種子生産期に密度が増加する甲殻類の1種Zeuco sp.(タナイス類)が、アマモ、タチアマモ両種の種子を摂食することが初めて確認された。種子の食害率は、花穂当たりでアマモでは30%であるのに対し、タチアマモでは70%以上と非常に高かった。以上によりZeuco sp.は特にタチアマモの種子繁殖の成功率に大きな影響を与えることが明らかになった。
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