林床に生育する樹木稚樹が、様々に異なる環境条件、特に光条件、にどのように適応してしているかを物質生産の面から明らかにする目的で調査を行った。調査は、奈良市春日山(御蓋山)の北東斜面で、ツブラジイ・モミを林冠木とする常緑樹林内とウリハダカエデを林冠木とする落葉樹林内で行った。両プロットの低木層で優占するイヌガシを測定対象とし、個葉の光合成・呼吸機能や各シュートの成長、展葉と落葉、開花結実等を調査した。 光合成速度は両プロットに生育する個体とも、冬に低く春から秋にかけて高い水準で推移する傾向が見られた。常緑プロットの方が落葉プロットよりも光合成速度は常に低い傾向にあり、特に冬季は顕著に低かった。一方、呼吸速度は常緑プロットで常に低い傾向が見られたが、明らかな季節変化は認められなかった。これらの結果から、林床に生育する林床稚樹は光環境に応じた光合成・呼吸機能を発揮しており、特に、光環境が悪い環境下では、限られた生産に呼応するように呼吸消費を押さえている姿が明らかになった。 シュートの観察からは、落葉プロットの方が常緑プロットよりも、冬芽形成が多いこと、開葉・落葉が共に多いこと、開花個体および開花シュートが多いこと、平均シュート伸長量が長いこと、などが明らかになった。特に、開葉数には1.8倍程度の差があったものの、多くの落葉のために、年間の葉量増加の点では両プロット間で差が無かった。常緑プロットの個体では樹冠の最外層に位置するシュートが当年生である確率は50%以下で、3年以上まえのシュートと推定されるものもあった。このように林床に生育する稚樹のシュート内の葉齢分布には規則性がなく、光環境の違いにより葉のturn overが異なることから、積み上げ法により稚樹の物質収支を推定することが困難であることが明らかになった。
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