研究概要 |
クラッチ内の子供間に(親の投資に先立つ)「質」の変異が存在する場合、すべての子供に平等に投資することは親の適応度を最大にしない(Haig,1990)。多くの亜社会性昆虫に見られるように、親がクラッチを体で覆う姿勢で保護する場合には、クラッチ周辺部の死亡率が必然的に高くなる(e.g.,Eberhard,1975)。従って、これらの親は、クラッチ周辺に位置する子供に「投資を控える」かも知れない(Mappes et al.,1997)。そこで本年度は、亜社会性のツノカメムシを用いてクラッチ内部の卵サイズ変異の存在を調査した。 野外から(捕食痕の無い)卵塊を採集し、卵塊の周辺部に位置する卵と中央部に位置する卵を、各卵塊当りそれぞれ無作為に10個選び、重量を電子天秤を用いて0.01mgまで測定した。測定誤差の検討のため、測定は3回繰り返した。また、周辺部と中央部の卵をそれぞれシャーレ内で保持し、孵化直後と3日後に1令幼虫の重量を測定した。 その結果、ヒメツノカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、マルモンキツノカメムシの3種では、数%以内とわずかな違いながら、クラッチ周辺部に位置する卵が中心部に位置する卵よりも有意に小型であることが判明した。さらに、ヒメツノカメムシを用いて卵サイズと孵化幼虫サイズの関係を見たところ、両者は正に相関しており、卵サイズが幼虫サイズを決める要因となることが分った。また、雌親の体サイズの影響を統計的に取り除いて卵サイズとクラッチサイズの関係を見たところ、両者はトレードオフの関係にあることが明かとなった。これらの亜社会性ツノカメムシでは、子供の生存期待値に応じて親の投資が調節されている可能性が高い。
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