植物界でこれまで報告のない走化性を示すタンパク質について、以下の解析を行った。 1)走化性タンパク質の生理特性の解析 以前に、有性的細胞分裂を誘起する性フェロモンを精製したが、その精製標品自身にも走化性活性が見られた。 この性フェロモンは、有性的細胞分裂を誘起することに必要な濃度より10-100倍に希釈することで、接合相手の細胞を自身の存在方向に引き寄せるが、高濃度では作用を示さず、むしろ負の走化性も示す場合も見られた。一つの性フェロモンが、その放出量により機能を使い分けるという例は植物では知られておらず、新規の調節機構の発見といえる。 2)性フェロモン遺伝子のクローニングと分子的解析 この性フェロモンのアミノ酸配列を決定し、逆転写PCR法により全長をコードするcDNAをクローニングした。この遺伝子は-型細胞内で発現することが確認されたが、+型細胞をわずかに共存させることで、より顕著に発現することも示された。さらにその遺伝子発現は、光と窒素原欠乏という有性生殖に必要な環境条件の下で起こることも確認された。 この遺伝子は、遺伝子発現の見られない+型細胞内にも存在していることがゲノミックサザン法により確認され、性特異的な調節機構を受けていることが示唆された。 3)遺伝子組換え型性フェロモン産生の試み 得られた遺伝子を酵母に導入し、遺伝子組換え型性フェロモンの産生を試みた。非常に微量ながらも性フェロモンの産生が確認されたので、その生理活性について検討中である。
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