研究概要 |
マングローブ植物とは、熱帯、亜熱帯の沿岸域に生息する樹木類の総称であり、その最大の特徴は汽水域で生育できる点にある。その耐塩性機構に関する遺伝子レベルでの研究は全く進んでいなかった。近年、三村徹郎博士らがマングローブ植物の一種であるBruguiera sexangulaの培養細胞系を確立した。この培養細胞は100mMのNaCl存在下においても、ほとんど生育阻害を受けない点で、培養細胞としては極めて珍しい性質を有している。本研究ではこのマングローブ培養細胞の分与をうけ、100mM NaCl存在下で培養した培養細胞から抽出したmRNAを基に、cDNAライブラリーを構築し、このcDNAライブラリーからマングローブの耐塩性に関与するcDNAの単離を試みた。得られた、cDNAライブラリーを大腸菌に導入し、得られた形質転換体の耐塩性を指標としたスクリーニングを行った結果、29のcDNAが明らかに大腸菌の耐塩性を向上させた。これらの塩基配列を解析した結果、23のcDNAの塩基配列が同一であった。これらのcDNAの塩基配列から考えられるアミノ酸配列は、現在データベース(PIR,SwissProt)上に登録されているタンパク質とは全く異なった。このことから、これらのcDNAは新規のタンパク質をコードする遺伝子であると考えられた。我々はこのタンパク質をマングリンと命名した。マングリンcDNAを酵母、及びタバコ培養細胞に導入した結果、それぞれの形質転換体において耐塩性の強化が確認された。また、マングローブ培養細胞に塩ストレスを加えたときも、マングリンmRNAの発現量の増大が確認されたことから、マングリンは、B.sexangulaの耐塩性機構に対し、極めて重要な役割を担っているものと考えられた。
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