高等植物の軸性器官における伸長成長は、「細胞壁の力学的伸展」と「細胞の水吸収」という二つの過程の同時進行により成り立っている。従って、黄化下胚軸の伸長成長の青色光による抑制は、このいずれか、あるいは両方を調節することによって起こっていると考えられる。まず、「細胞壁の力学的伸展」過程に注目し、本研究を行った。 細胞壁の臨界降伏張力をpH依存的に調節するタンパク質、yieldinのcDNAクローニングを行い、その全長塩基配列を決定した。臨界降伏張力を調節するタンパク質のクローニングは世界でも初めてのことである。このタンパク質は興味深いことに、クラスIIIキチナーゼおよびコンカナバリンBにホモロジーを有するタンパク質であり、弱いながらもキチナーゼ活性を有していた。しかしながら、yieldinのキチナーゼ活性はpHに影響を受けなかったので、yieldin活性はキチナーゼ活性そのものではないと考えられた。Yieldinの転写レベルでの発現は、伸長成長が起こっている部域において顕著に高いことも示された。また、タンパク質レベルでの局在を抗yieldin抗血清をもちいて調べたところ、やはり伸長成長が起こっている部域に局在していることも明らかとなった。ただし、地下部でのyieldinの存在は確認できなかった。このように、yieldinは高等植物の地上部の器官において伸長成長に重要な役割を果たしていることが示唆された。現在、青色光抑制におけるyieldinの役割について検討を進めているところである。
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