クロロフィル(Chl)は、光合成の光反応に必須の色素である一方、光照射により細胞に重篤な傷害をもたらすラジカルを形成する危険な分子でもあるため、細胞はその合成を厳しく制御していると考えられる。その合成制御機構を明らかにする上で、Chl合成系の各過程の生化学的諸性質を明らかにする必要がある。藻類や裸子植物の暗所での緑化を決定づけている光非依存性プロトクロロフィリド(Pchlide)還元酵素(DPOR)は、その推定構造遺伝子の相同性から、ニトロゲナーゼと類似した酵素であることが指摘されてきたが、その酵素的実体は不明であった。筆者は、光合成細菌Rhodobacter capsulatusを用いて、本酵素のアッセイ系を確立した。また、その推定サブユニットをSタグ蛋白質として同細菌で大量発現させ、精製蛋白質を用いた再構成系を確立することにより、1)サブユニット組成(BchLからなるL-コンポーネントとBchNとBchBで構成されるNB-コンポーネントの両方が要求される)、2)還元力としてジチオナイトを要求する点、3)Mg-ATPを要求する点、においてDPORがニトロゲナーゼと共通した性質を有することを世界に先駆けて明らかにした。さらに、シャトルベクターを活用することにより、その発現レベルをさらに改善し、4)L-コンポーネントが鉄硫黄センターを有すること、5)NB-コンポーネントが基質Pchlideの結合部位を有すること、6)活性がニコチンアミドで阻害される、などの本酵素の諸性質を明らかにしつつある。
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