本年度は、先ず、フェニルプロパノイド類の細胞壁多糖への転移(付加)を調べるためのアッセイ系の確立の際に必要な基質(フェニルプロパノイドーコエンザイムA複合体、Feruloyl-CoA、Coumaroyl-CoA)の合成を行い、HPLCを用いてこれらの基質を反応産物から効率的に精製する方法を確立した。HPLCの逆相カラム及びゲルろ過カラムを用いることにより、約95%の純度のFeruloyl-CoAとCoumaroyl-CoAを得ることが出来た。次に、これら基質を用いアッセイ系を検討した。フェニルプロパノイド類の細胞壁多糖への転移反応は、細胞質内、特に細胞内膜系でおこると考えられることから、遠心分画法によりコムギ幼葉鞘から膜(ミクロソーム)画分を調製しアッセイに用いた。また、ジギトニンで膜画分から可溶化させたタンパク質画分を用いたアッセイも試みた。一方、フェニルプロパノイドのアクセプターとなる多糖は、イネ科植物ではアラビノキシランであることから、oatspeltsのキシラン(シグマ社)からフェニルプロパノイド類が結合していないアラビノキシラン(分子量約8万)を調製し用いた。各種のbuffer系を用い、イオン類の組成や補酵素成分等を様々に組み合わせてアッセイを行ってきているが、いずれの場合でもフェニルプロパノイドの多糖への転移活性は検出できていない。フェニルプロパノイドの転移のアクセプターが低分子である可能性が考えられることから、現在、上記のアラビノキシランを加水分解し低分子のオリゴ糖の調製を行っている。今後、このアラビノキシランのオリゴ糖をアクセプターとした実験を行う予定である。また、フェニルプロパノイドの付加が多糖鎖の伸長とカップリングしている可能性が考えられ、この点についても検討したい。
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