本研究の目的は、多細胞高等植物では解析が複雑である光応答反応、特に、屈光反応を単細胞であり、しかも糸状の形態で安定して生育させることができるシダ配偶体(原糸体)を使って、分子生物学的に解析することである。ホウライシダ配偶体の光屈性は、上記のphytochrome関与の赤色光だけでなく青色光でも誘導される。他方、高等植物の光屈性は青色光で誘導され、青色光吸収色素の1つと考えられるNPHlで制御されている。まず、高等植物のNPHlで保存されている領域、即ち、LOVドメインと蛋白質リン酸化酵素ドメインに対応するPCRプライマーを設計し、ホウライシダの短相世代(乾燥胞子、吸水後の胞子、原糸体、前葉体)及び、複相世代の幼植物体からRNAを抽出し、RT-PCRにより、シダNPH1ホモログのcDNAを増幅した。暗所で育てた複相世代植物体の葉由来のRNAを用いた場合、1.5kbpのcDNAが増幅されたが、他の組織由来のRNAでは顕著な増幅は認められなかった。このcDNAをクローニング後シークエンスし解析した結果、シロイヌナズナのNPHlと高いホモロジーが認められた。5'-RACE及び3'-RACEPCR法を用いてこの全長cDNAを単離したところ、このcDNAは3492bpで二つのLOVドメイン(LOV1、LOV2)と蛋白質リン酸化領域を有する1092アミノ酸からなる分子量122kDaの蛋白質(AcNPHl)をコードしており、アミノ酸レベルでシロイヌナズナのNPHlと45%程度のホモロジーを有することが明らかとなった。ゲノミックサザンの結果、この遺伝子はシングルコピー遺伝子であると考えられた。このcDNAにコードされている蛋白質の一部(LOV2)をcalmodulin binding peptide(CBP)との融合蛋白質として大腸菌内で発現させ、その蛍光分光分析を行ったところ、flavin monononucleotide(FMN)が結合していることが示された。このことは、AcNPH1がシダの青色受容体であることを示唆している。最近シダを用いた遺伝子破壊系が開発されたので、今後、シダゲノムDNAからAcNPH1遺伝子の単離/塩基配列決定を行った後、得られた情報をもとに遺伝子破壊を行うことによって、AcNPH1の機能が明らかになると期待される。
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