レチノクロム変異体を作製し、レチノクロムと視物質との間のどのようなアミノ酸配列の違いが、それぞれに異なる機能をもたらすのかを、波長制御機構・G蛋白質の活性化能に絞って検討した。 (1)レチノクロムの概要細胞系での発現および精製系の確立:レチノクロムのC末端に単クローン抗体のエピトープ(rh1D4)を導入し、ヒト腎臓由来293S細胞を用いて発現させた。単クローン抗体固定化アガロースを用いたアフィニティークロマトグラフィーを用いて、光学純度(A280/A493)が1.8程度の試料が安定して精製できる系を確立した。 (2)波長制御機構の比較(プロトン化シッフ塩素の対イオンの同定):シッフ塩素結合のプロトン化は、可視光を受容するために必須である。これを安定化する対イオンを同定するために、レチノクロムに存在する15個のグルタミン酸・アスパラギン酸をグルタミンとアスパラギンに置換した変異体を作製し、吸収が近紫外部に移行する変異を検索した。その結果、N末端より171番目に存在するグルタミン酸がカウンターイオンであることが強く示唆された。これは、脊推動物でのカウンターイオンの位置と全く異なり、機能との相関において注目される発見である。 (3)G蛋白質の活性化能:G蛋白質との相互作用部位である細胞内第3ループを交換するとG蛋白質の選択性が変化することを見いだしていた。そこで、レチノクロムのG蛋白質活性化の潜在的能力を知るために、レチノクロムの第3ループをウシロドプシンやGo共役ロドプシンのループと交換した変異体を5種類作製したが、発現しなかった。さらに、ロドプシンとレチノクロムとのキメラの作製を12種類試みたが、いづれも発現しなかった。レチノクロムとロドプシンとは、それぞれの機能を生み出すために特殊化した部位が存在し、それぞれがキメラにより置換されるともはや発現しないことが示唆された。
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