軟体動物の感桿型視細胞の光受容の細胞内情報伝達メカニズムについては、頭足類を用いた研究などからロドプシン、Gq型GTP結合蛋白質、ホスホリパーゼC(PLC)が順に機能することが示されているが、その後どのようにして細胞膜の陽イオンチャンネルが開き細胞が脱分極するかは明らかになっていない。本研究では光受容に関与するイオンチャンネルの開閉制御機構を解明するためにパッチクランプ測定システムを作成し、アワビ視細胞光受容部位の光応答を測定した。パッチクランプに用いたアワビ視細胞光受容部位のインサイドアウト標本は、プロテアーゼにより細胞間の接着を弱めた網膜の切片から作成した。フラッシュ光刺激に対する、光受容部位インサイドアウト標本の応答を観察したところ、アワビ視細胞の光応答の電流成分には、出現時間が異なる3つの電流成分が含まれることを見いだした。1つは出現時間が比較的早い、小さい内向き電流で、残りの2つは出現時間の遅い大きい内向き電流であった。これらはナトリウムイオンとカルシウムイオンの細胞内への流入によるものと思われる。アワビ網膜の光受容部位にも頭足類と同様にGq、PLCが存在することを抗体により確認しているので、腹足類のアワビも頭足類と同じ情報伝達メカニズムを用いていると考えられる。アワビ視細胞からインサイドアウト標本が作成できたことにより、軟体動物の感桿型視細胞のイオンチャンネルの開閉制御因子の検索が可能になった。
|