研究概要 |
妊婦血中に存在する酵素、胎盤性ロイシンアミノペプチダーゼ(P-LAP、オキシトシナーゼ)は、子宮筋収縮作用をもつオキシトシンの分解を通じ妊娠の維持に働くと考えられている。当グループが行ったP-LAPのクローニングによって、P-LAP、アミノペプチダーゼA、アミノペプチダーゼNなどは一次構造上の相同性が高く亜鉛結合モチーフH-E-X-X-H-(18X)-Eを有する一つのファミリーをなすことが示されるとともに、P-LAPは非妊娠時にも種々の組繊で発現していることが判明し、妊娠維持の他にも多様な機能を有することが示唆された。そのためP-LAPの生理的役割の全体像を把握することを本研究の第一の目標とした。 本年度はまずCHO細胞を用いた大量発現系によりヒト可溶性P-LAPを調製し、単一に精製して生化学的性状を調べたところ、溶液中におけるホモダイマーの形成、サブユニットあたり1分子の亜鉛の含有など、このファミリーの酵素に共通する特徴がみられた。また各種アミノアシルーMCAのうちLeu-及びS-Benzyl-Cys-MCAに対し分解活性が高かった。さらにアミノペプチダーゼ阻害剤のアマスタチンに加え、キレート剤1,10-フェナントロリンによってもP-LAP活性の阻害がみられ、活性発現に亜鉛が必須であることが示唆された。次に生体内における基質を探索する目的で、種々の生理活性ぺプチドの分解産物を逆相HPLCで分離、分析し、切断部位を特定したところ、P-LAPは15アミノ酸残基以下のペプチドのみを分解し、P'1部位にプロリンを持つペプチドは分解しないことが示唆された。またオキシトシンや抗利尿ホルモンに加えて、いくつかの神経ペプチドがP-LAPにより分解され、本酵素が脳神経系においても重要な機能を担う可能性が示唆された。 目標の第二は、ファミリー全体の生理的意義の解明である。P-LAPと特に相同性が高く、機能が未知である脂肪細胞由来ロイシンアミノペプチダーゼの組み換え型タンパク質を作製し、生理活性ペプチド分解作用を解析したところ、アンギオテンシンの分解が認められ、血圧調節への関与の可能性が示唆された。
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