研究課題
本年度は、昨年度開発した分子マーカーを用いて、イチジク属植物-イチジクコバチ類送粉共生系における共種分化過程の解析を行った。九州南部、奄美大島、沖縄本島、石垣島で採集したアコウとイヌビワおよびそれらに特有のイチジクコバチ類を用いて、昨年度開発したミニサテライト・マーカーによる集団内の遺伝的多型および集団間の遺伝的分化の程度を調べた。その結果、イヌビワでは集団内の遺伝的多型の程度が小さいのに対して、集団間の遺伝的分化の程度は比較的大きいという結果を得た。これに対してアコウでは、集団内の遺伝的多型は比較的大きいのに対し、集団間の遺伝的分化の程度は小さいという結果となった。この結果は、雌雄同株のイチジク属植物では非常に広い範囲で遺伝的交流を行っているとのこれまでの報告と一致する。一方、イチジクコバチ類について開発したミニサテライト・マーカーには期待したほどの変異は得られず、昨年のミトコンドリアDNAのcoxI-coxII遺伝子間領域の塩基配列の解析結果と同様、イヌビワコバチには各産地間で遺伝的分化が見られたのに対し、アコウコバチでは地域間の遺伝的分化の程度は小さかった。これらの結果を総合すると、イチジク属植物・イチジクコバチ類双方とも、雌雄異株の種であるイヌビワの方で、集団間の遺伝的分化が大きかった。このことは雌雄異株のイチジク属植物の各個体がほぼ周年開花しているため、小集団でも常にイチジクコバチ類の集団を維持できることと強く関連している。このことが結果として地域間の遺伝的交流を妨げ、やがては種分化につながっていくものと推定される。そしてこのことは、雌雄異株のイチジク属植物には地域的な固有種が多いのに対し、雌雄同株のイチジク属植物では広域分布種が多いこととよく対応しており、イチジク属植物-イチジクコバチ類送粉共生系の共種分化の重要なモードであると考えられる。
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