グンバイヒルガオとナガミハマナタマメは汎熱帯海流散布植物と呼ばれ、1つの種が全世界の熱帯域に分布するという特殊な分布バターンを持つ。このような分布は海流による種子散布によって生じ維持されていると、種子漂着などの定性的なデータに基づいて考えられてきた。そこで本研究では、DNAマーカーを用いて集団間における遺伝的分化の程度を定量し、分布域の成立と遺伝子交流の実体を明らかにする事を目的とした。 平成11年度は遺伝マーカーの開発にあて、平成12年度にはグンバイヒルガオで全世界の集団間の比較を行った。その結果、グンバイヒルガオの葉緑体DNAtrnT-trnL遺伝子間領域には調べたサンプル間では全く変異が見られなかった。同じく葉緑体のpsal-accDの遺伝子間領域では、わずか1サンプルのみに1塩基の変異が見られた。核DNAではrDNAのITS領域、ジヒドロフラボノル4リダクターゼ(DFR)などのゲノムDNA領域の塩基配列を決定した。特にDFR-B遺伝子の第3イントロン約500bpでは全世界のハプロタイプの遺伝子系統樹を作成することができ、一部については集団解析も行った。その結果、これまでに認識されている2亜種(ssp.pes-capraeとssp.brasiliensis)は異なるまとまりを作ること。ssp.brasiliensisで得られた遺伝子系統樹は概ね地理的にまとまっていることが示された。また、およそ300万年前に成立したと考えられるバナマ地峡を挟む新大陸の集団間では10以上の塩基置換を蓄積していることも示された。しかし、メキシコからエクアドルまで新大陸太平洋側に広く分布するハプロタイプと全く同一のハプロタイプを持つものが、アフリカ大陸大西洋側のセネガルやガーナにも見られ、これらの集団間にはごく最近遺伝的交流があったことが示された。
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