アリ類で偶然発見した細胞質内に共生する2本鎖RNAは、バッタ、ユスリカ、ガやチョウ類など、様々な昆虫で見つかっている。これまでの結果から、少なくともアリ類の一部(ヤマヨツボシオオアリやヒラズオオアリ)では、2本鎖RNAの増殖がコロニーに余計な負担をかけず、かつそれらが確実に宿主の子孫に伝わるように、繁殖女王でのみ増幅のスイッチが入るという、進化的に安定な関係に達していることが示唆される。一般にアリ類では、女王を取り除くと、ワーカーの中から卵巣を発達させ、産卵を行う個体が出現する。もし、2本鎖RNAの増殖が宿主アリの生殖活動と関連しているならば、野外から採集したコロニーを実験的に女王を取り除いたサブ・コロニーと女王の存在するサブ・コロニーに分けて飼育した場合、前者ではワーカーの中から卵巣が発達し、体内の2本鎖RNAを増殖させる個体が出現することが予測される。そこで本年度は、コロニーを(1)女王あり、(2)女王なしのサブ・コロニーに分けて飼育し、(2)女王なしの実験群でワーカーに2本鎖RNAが検出される個体が増加するかどうか検討した。その結果、後者では2本鎖RNAが検出される個体の割合が増えることを確認し、上記の仮説を支持する結果を得た。このアリの2本鎖RNAの塩基配列については現在解析を続行中である。今後も昆虫における2本鎖RNAの系統解析を進め、既知のRNAウィルスの塩基配列との類縁関係も探り、昆虫と2本鎖RNAの共生関係が進化した道筋を明らかにしていく予定である。
|