研究概要 |
ワタセジネズミおよびオリイジネズミの系統進化について知るために奄美諸島,沖縄諸島での標本採集,現地調査を行った.標本は形態学的,遺伝学的解析が行える状態にして研究室に持ち帰った.ワタセジネズミの島嶼間の分化については形態的な解析では奄美諸島北部,奄美諸島南部-沖縄諸島の2群が認められたが,それぞれの内部での分化も小さくなかった.ミトコンドリアのチトクロームb遺伝子の402塩基対の部分塩基配列では2群の間での塩基置換は確認できなかった.形態的な分化が島嶼環境への適応として,最近になって急激に生じたことが示唆された.奄美大島ではオリイジネズミとワタセジネズミの生態的競合について検討した.オリイジネズミが生息していると言われ,ワタセジネズミが確認されていない森林部に多くのわなを設置したが,ワタセジネズミだけが捕獲された.ワタセジネズミが本来生息する低地から,オリイジネズミの生息する森林に最近になって侵入していることも示唆される.ワタセジネズミとオリイジネズミは琉球列島の中部だけに生息する固有種であり,形態上の特徴に基づく解析からはそれらの近縁種を見いだすことは出来なかった.ミトコンドリアのチトクロームb遺伝子の部分塩基配列による結果でも,解析したワタセジネズミは他のどの東アジア産ジネズミ類とも遠縁の系統関係であり,別属であるジャコウネズミと単系統群を形成した.遺伝子解析の結果に古地理学的結果を合わせると,中部琉球列島に固有の2種のジネズミのこの地域への侵入は中新世までさかのぼると考えられた.
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