研究概要 |
従来、古人骨の歯は、咬耗・磨耗が進行することで歯冠形態が失われ、あるいは隣接面咬耗のため歯冠近遠心径が減少したまま分析に供されてきた。このため必然的に歯冠本来の姿が多少なりとも失われた状態でその特性の考察が行われてきた。本研究では、咬耗による形態変化が起こる以前の未萌出・未咬耗の永久歯を集中的に取り上げて詳細に分析することで、計測値と非計測的形質の両面から歯冠形態の時代的・地理的変異を探ろうとするものである。 本年度は国立化学博物館,九州大学大学院,東京大学総合研究博物館保管の縄文・弥生・中世・近世の乳児から幼児までの古人骨資料について歯の計測と観察を実施した。資料調査に際しては観察した全ての歯に関してマクロ写真撮影を行い,現在これを基にした,より詳細な非計測的形質の抽出検討を行っている。 歯冠計測値に関しては,今年度得られたデータの整理が終わった段階である。未採集の資料もあり,十分な資料数が確保できていないため中間結果であるが,文献資料から得られた従来の計測結果との比較を行った結果,歯冠近遠心怪は従来発表された数値よりも大きくなる傾向が認められた。またこの差は臼歯部において特に顕著であるように看取された。これは咬合力の影響と萌出時期の相違による口腔内機能期間の差に起因するものと考えられる。 本年度調査したような幼児古人骨の総数は限られており,資料数が不足することは否めない。したがって来年度の調査では対象資料を肉眼的に咬耗の認められない歯をもつ少年人骨まで拡大して資料数の増加をはかった上で未咬耗永久歯の特性の分析と考察を行う予定である。
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