今年度の主な成果は、人骨の年齢推定の方法を確立したことである。まず、腸骨耳状面の表面形態による年齢推定式を新たに作った。前年度に引き続き、正確な年齢の記録が残っている現代日本人骨格標本にて、左右の腸骨耳状面の肉眼観察を行った。今年度は、九州大学、長崎大学医学部、新潟大学医学部所蔵の標本を用い、主に女性の資料数を増やした。資料数が704個体(男性438女性266)に達した時点で、数量化I類を用い、腸骨耳状面表面の13形質を変量とする年齢推定式を算出した。次いで、恥骨結合の表面形態、歯の摩耗、頭蓋縫合の癒合の程度、骨端部の癒合の程度、それぞれを用いた年齢推定式を新たに作った。正確な年齢の記録が残っている現代日本人骨格標本(千葉大学医学部所蔵の標本200体)にて、各部位の観察を行い、各部位ごとに、数量化I類を用いた年齢推定式を算出した。これら5つの年齢推定式は、いずれも既存の推定式と同程度の精度を持つことがわかった。これらの部位による年齢推定式は今までにもいくつか作られているが、今回、全ての部位において、観察形質の分類基準を改良した。また恥骨結合以外に関しては、日本人骨格標本を用い、数式化する際に理論的に最適な方法である数量化I類を用いた式を作ったのは、今回が始めてである。恥骨結合に関しては、資料数を大幅に増やした点が、新しい点である。 今後、古人骨(主に縄文、弥生人骨)の年齢推定に取りかかる予定である。その際には、上述の5種類の年齢推定式を用いて、それぞれの式による推定年齢を算出し、最終的には、全ての値を考慮したSummary ageを算出し、その個体の年齢の推定値を決定することになる。 また、腸骨上の妊娠痕と妊娠、出産回数の対応関係を裏付けるデータを蓄積するために、今年度も、解剖遺体にて妊娠痕を観察し、その遺体の生前の妊娠、出産に関するデータを集めた。
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