研究概要 |
ZnTe(100)面上にCd_<1-x>Mn_xTeを分子線エピタキシー(MBE)により成長させ、格子歪みを利用した自己組織化ドットを作製し、その磁気光学効果の研究を行った。Cd+MnおよびTeの分子線を交互に供給する原子層エピタキシーの手法により、ZnTe(100)面上にCd_<1-x>Mn_xTeを3.5原子層成長させた。大気中での原子間力顕微鏡(AFM)による観察により、Mn組成が10%以下の範囲で直径〜20nm,高さ〜2nm)の円錐状のドットが高密度(10^<10>〜10^<11>cm^<-2>)に形成されていることが確認できた。 Cd_<1-x>Mn_xTeドット表面をZnTeキャップ層で覆った埋め込み型のドット試料のフォトルミネッセンス(PL)測定を行ったところ、励起子発光による発光スペクトルが観測された。そのスペクトルは約20〜26meVの間隔をおいた2つの発光線からなるダブルピーク構造を示し、その温度依存性および磁場依存性において異なる振舞いを示すことがわかった。すなわち低エネルギー側の発光線は、温度を低温(〜4.2K)から上昇させると発光強度が急激に減少し(20K付近でほぼ消失)、また温度〜10Kまでの範囲で、約13meVほど高エネルギー側にシフトするという異常な現象が見られた。磁場中では、低エネルギー側の発光線は巨大ゼーマン分裂による体エネルギー側へのシフト量が高エネルギー側の発光線より遥かに小さく、また発光の円偏光度が弱い磁場域で飽和に達するという特異な振舞いが観測された。 これらの実験結果の解釈として、2つの発光線はいずれもドット中に束縛された励起子発光によるものであるが、低エネルギーの発光線においてのみ励起子磁気ポーラロン(EMP)の効果が顕著に現れているものと考えられる。すなわちEMPの形成に伴う束縛エネルギーが大きいため、零磁場においては大きなストークスシフトをしめすが、磁場印加によりEMPの形成が抑制されるため、見かけ上のゼーマンシフト量は小さくなる。また温度増加に伴い、EMPが破壊されるので、発光強度が急激に減少し、かつピークエネルギー高エネルギー側にシフトするものと解釈できる。
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