近年比較的容易に得られるようになった10T級の強く急峻な磁場勾配の下では、これまで非磁性と考えられてきた反・常磁性の物質に対しても大きな磁気力が作用する。普及型の10T超伝導磁石でも、10気圧程度の高酸素圧環境下では水の浮上が可能であること(磁気アルキメデス浮上)が研究代表者らのグループにより見出されており、本研究ではこの磁気アルキメデス浮上法を用いて自由表面を有する液体からの結晶成長を評価する事を目的としている。磁気アルキメデス浮上では、超伝導磁石のボア内に耐圧容器を挿入する必要があり、内部の浮上液滴の観測には専用の観測装置を用意する必要がある。本研究では、まず、強磁場中という使用環境も考慮し、CCDカメラや照明ステージを組み合わせて浮上液滴の観測システムの構築を行なった。また、温度変化による無機電解質水溶液からの再結晶過程の評価を目的として、温度コントロール機構を作製した。外部からの観測を阻害せず、ボア中の観測スペースをできる限り占有しないために現状では限定的であるが、ある程度のコントロールが可能になった。これらのシステムを利用して、硝酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、リゾチームなどの再結晶過程を観測した。溶液は浮上状態に置かれ、自由表面を有するので、核形成が起こりにくく、高い過飽和状態が実現する事が観測された。また、溶液と析出結晶の磁化率及び密度の差による析出結晶の沈降も観測された。沈降した結晶は、溶液の表面張力のために落下する事は無かった。これらの事は磁気浮上に特徴的な現象であり、溶媒・溶質の組み合わせや過飽和度などの変化により変化する事が予想される。次年度はさらに詳細な観測・解析を行なう。
|