研究概要 |
本研究は分子エレクトロニクスデバイスの開発を念頭に置いて有機分子の、特にナノスケールでの、構造・配向制御と機能発現を目的としている。本年度は、有機強誘電性ビニリデンフルオライド(VDF)オリゴマーのエピタキシャル成長による構造・配向・コンフォメーション制御と局所領域における強誘電特性の発現について検討した。 試料は真空蒸着法により各種単結晶(KCI,NaCl,KBr,Si,Au/mica,Pt/MgO)基板上に薄膜作製し、エネルギー分散型全反射X線回折計及び原子間力顕微鏡、フーリエ変換赤外分光法により構造・配向評価した。その結果、VDFオリゴマー薄膜では、VDFオリゴマーがKBr(001)、KCl(001)基板上では強誘電結晶相であるI型を形成し、且つエピタキシャル成長することが分かった。そこで、このエピ薄膜を金基板上に水中転写し、導電性AFM深針を用いた局所分極領域の作製とその観測を行った。まず、転写による膜構造の変化を調べるため、金基板上に転写したVDFオリゴマー膜をXRD,FT-IRにより評価した所、転写後も強誘電性結晶相を保持していることが分かった。そこで、導電性AFM深針を用いて局所的に直流電圧を印可してポーリング処理を行い、分極領域の検出を試みた。分極域の検出はAFM深針と下部電極間に加えた余弦電圧に対する微小圧電応答をロックイン検出し、その信号を2次元画像化することによりおこなった。なお、膜厚を30mm(43分子層)と仮定すると、深針直下では約250MV相当の電界が印可されたことになる。得られた圧電応答特性では、ポーリング電圧の極性に依存した圧電振動コントラストが得られ、VDFオリゴマーの局所的分極反転操作に成功すると共に強誘電特性を初めて証明できた。これらの結果はVDFオリゴマーのナノスケール電子機能発現の可能性を示唆している。
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