本研究は分子エレクトロニクスデバイスの開発を念頭に置いて有機分子の、特にナノスケールでの、構造・配向制御と機能発現を目的としている。本年度は、有機強誘電性ビニリデンフルオライド(VDF)オリゴマーの強誘電相への構造・分子配向制御と局所領域における強誘電特性発現と結晶相による特性変化について検討した。 Vinylidene Fluoride Oligomer(CF_3-(CH_2CF_2)_<17>-I;VDFオリゴマー)を試料として用い、単結晶表面の周期ポテンシャルを利用したエピ成長法により膜構造の制御を試みた。作成した超薄膜の界面構造・配向性を超高感度全反射X線分析システムにより観測した。その結果、VDFオリゴマー超薄膜の結晶相、エピ成長挙動、分子膜/無機基板界面での整合特性を明らかとし、特に、KCl、KBr基板上ではVDFオリゴマーの双極子モーメントが基板表面に平行、且つ<110>方向(同種イオン列上)に配列した高秩序強誘電性超薄膜の形成が可能であることを示した。また、成膜後のアニーリング処理によっても強誘電結晶相の形成が可能であり、かつエピタキシャル成長の配向分布は変化しないことを示した。 次に、その強誘電性超薄膜を対象としてSPM導電性探針から局所電場を印可し、ナノサイズの分極ドメイン作製を試みた。書き込んだ分極情報は、圧電応答信号として再びSPMにより検出した。表面形状像では薄膜表面の変化は観測されないものの、圧電位相像において印可電圧の正負極性に依存した逆特性を示す圧電領域が作製されることが確認され、SPMによる分極反転操作が可能であることを実証した。また、成膜条件の制御により常誘電相の超薄膜を形成し、その圧電ヒステリシス観測を行った結果、強電場ポーリングにより圧電応答が生じることを見いだし、電界による常誘電-強誘電転移の可能性を示した。
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