本研究は、直径数ナノメートル程度のSiナノ結晶に、PやBをドーピングしナノメートルスケールのpn接合を形成することを最終目的としている。前年度までは、Pを低濃度にドープすると欠陥が解消し発光効率が改善すること、及び、ある濃度以上にドープすると、ナノ結晶内部で、Pドーピングにより供給された電子と光励起された電子-正孔対の間でAuger相互作用が可能になり、発光効率が急激に低下することを見出した。本年度は主にSi_<1-x>Ge_x混晶ナノ結晶に対して、不純物ドーピングの影響について研究を行なった。フォトルミネッセンス及び電子スピン共鳴(ESR)測定より、Si_<1-x>Ge_x混晶ナノ結晶の発光効率がSiナノ結晶に比べて非常に低いこと、及びSi_<1-x>Ge_x混晶ナノ結晶の表面には、Geダングリングボンド(Ge Pbセンター)が多数存在し、このダングリングボンドが発光効率低下の原因であることが明らかになった。Si_<1-x>Ge_x混晶ナノ結晶にPをドープすると、欠陥が劇的に解消され、発光効率が10倍以上改善することを見出した。これは、Pにより供給された電子がダングリングボンドを不活性化するためであると考えられる。さらにESR測定より、Pドーピングにより供給された電子は、Ge Pbセンターを優先的に不活性化した後、Si Pbセンター(Si、SiO2界面の酸素欠損欠陥)を不活性化することを明らかにした。可視-赤外光吸収測定を行なったところ、Pを高濃度にドープした試料で、赤外領域に単調に増加する吸収を見出した。この吸収は、伝導帯内の電子の遷移によるものであることから、すべての欠陥が解消すると、Pドーピングにより供給された電子は、自由電子としてふるまうことが明らかになった。本研究により、ナノメートルサイズのSi_<1-x>Ge_x混晶に不純物ドーピングによりキャリア制御が可能であることがはじめて明らかになった。
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