本研究では、硫化亜鉛(ZnS)系多層構造を用いた紫外半導体レーザの作製を目指し、量子井戸構造の作製と評価、およびp型電気伝導制御のための基礎研究をおこなった。 これまで、硫黄分子線を十分に制御した条件下で多量に供給することにより、ZnSおよびZnS系混晶が基板温度400℃から500℃という高温において成長可能なことを明らかにしてきたが、これを受けて、ZnS/ZnMgSおよびZnCdS/ZnMgS量子井戸構造を作製した。 ZnS/ZnMgS歪量子井戸構造においては、井戸幅を小さくすることにより軽い正孔、重い正孔の励起子発光のエネルギーが大きくなり、量子閉じ込め効果が確認された。またこれらの発光エネルギーから歪によるバンドギャップの変化を表す変形ポテンシャルを決定することができた。 ZnCdS/ZnMgS単一/多重量子井戸構造についてはフォトルミネッセンススペクトルにおいて活性層/井戸層からの非常に強い紫外発光を示した。また、発光は室温まで観測することができた。これはZnCdS/ZnMgS構造においてはキャリア閉じ込めが実現されていることを示すと考えられる。 一方、紫外半導体レーザへの応用に向けてのキーポイントとなると考えられるp型伝導層の作製のために、ベースとなるZnS半導体へのp型不純物(Na)の添加を行った。2次イオン質量分析等により、ZnSへNaが添加されていることは確認できたが、明確なp型伝導が得られるには至っていない。 なお、次年度の課題として、量子井戸構造の各構成層の高品質化と、それによる光励起レーザ発振の実現、ZnS、ZnMgSのp型化、電流注入による紫外レーザ発振などが挙げられる。
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