本研究ではポリイミドをイオンビーム改質して創製した材料からの電界電子放出現象を明らかにするためには、まず下記の2点が必要不可欠な要素となる。 1)先端形状の均一な構造を再現性良く作製技術の確立。 2)イオンビーム改質ポリイミド膜の電気伝導機構の解明。 本年度は、上記2点について重点的に研究を行った。 1)先端形状の均一な構造を再現性良く作製技術の確立。 従来のポリイミドのような有機材料の加工法では、加工形状の均一性、再現性および作製プロセスが複雑である。そこで、これらの問題を克服するために有機材料の熱軟化性の特徴を活かした、新しい構造作製技術としてスタンプ法を提案した。 スタンプ法とは、シリコン基板上にあらかじめ電子源の構造となるV字溝を形成した型を用い、スピン塗布したポリイミドに対し昇温、加圧することにより型の構造を転写する技術である。従来法と比べこの方法の特徴は、作製プロセスを大幅に簡略化できるとともに構造の均一性、再現性に優れている点である。 この方法では、型の長さ程度の長い刃状構造しか作製出来ない。しかし、ポリイミド膜をストライプパターンに加工し、それに対し型を直交させスタンプする事により、長さ2ミクロン程度の短い刃状の構造についても作製できる。さらに、スタンプして転写した構造に対し、型を直交させ2度目のスタンプを行うことにより、点状の構造も作製できることを実証した。また、これら3種の構造にに対しイオン照射を施した電子源から、良好な電界電子放出を確認している。 2)イオンビーム改質ポリイミド膜の電気伝導機構の解明。 イオンビーム改質ポリイミド膜の電気伝導機構を解明するため、改質膜の抵抗率の温度依存性の測定を行った。さらに、比較のため熱改質ポリイミド膜についても同様の実験を行った。 抵抗率の温度依存性の結果、イオンビーム改質および熱改質ポリイミド膜の電気伝導機構はホッピング伝導であることがわかった。また、熱改質膜との改質過程および抵抗率のに比較より、イオンビームによるポリイミド膜の改質は、イオン照射により発生する熱によるものではなく、物理的な照射効果で生じることがわかった。
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