本年度は(1)電子源構造と電界電子放出特性の関係(2)引き出し電極付き電子源の作製(3)素子作製領域の大面積化に重点を置き研究を進めた。 (1)電子源構造と電界電子放出特性の関係。 本年度は、昨年度スタンプ法により作製に成功した長短2種の刃状構造に加え、あらたにスタンプ法を用い円錐形構造およびピラミッド構造の作製に成功した。構造の違いによる電界電子放出特性の違いを1)電子放出のしきい電圧および2)放出電流の安定性の2点から検討をおこなった。 実験の結果、これらの中で短い刃状構造の電子源から最も低電圧(しきい電圧:約400V)で安定した電子放出(電流変動率:約15%)を確認した。低電圧動作に関しては、作製した4種構造の中で短い刃状構造が最も先端形状が鋭いためであることがわかった。これはこの構造を作製する際、意図的にポリイミド材料の逃げを作り込んだためである。安定性に関しては詳しいことはわからないが、ポリイミド材料の逃げ構造を作り込んだためより構造の均一性が増したためであると考えている。 (2)引き出し電極付き電子源の作製。 電子放出しきい電圧を低減させるため、電子源に絶縁層を介し近接配置された引き出し電極の作製を行った。絶縁層としてTEOSガスを用いたプラズマCVD法により作製したSiO2を、また引き出し電極となる金属にはスパッタリング法により作製したTaを用いた。フォトレジストを用いたエッチバックにより構造先端部のみを露出させ、TaおよびSiO2膜のエッチングを行うことで引き出し電極付き電子源の作製に成功した。 電子放出特性測定の結果、しきい電圧は20Vまで低減されることがわかった。 (3)素子作製領域の大面積化。 スタンプ法により電子源構造を均一に作製するためには、スタンプに使用する型のを100ミクロン各程度まで縮小しなければならないことがわかった。このような小さな型を用いて素子領域を大面積化する方法としてステップ&リピートスタンピングを提案した。この方法実現のためには、スタンプ後の型とポリイミド材料の剥離が容易である必要がある。我々は、スタンプ前にポリイミドに対しイオン照射を行うことでスタンプ後の剥離が容易になることを見いだし、30回程度の連続スタンプにより文字パターンの作製に成功した。
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