走査型プローブ顕微鏡(SPM)は極細な探針を用いて高分解能で物質の表面性状を観察できる顕微鏡である。特にSPMの短針と試料間に生じる摩擦現象はたいへん興味深く、マイクロトライボロジー(微小領域の摩擦や磨耗に関する研究として盛んに研究されている。しかしながら通常の原子間力顕微鏡(AGM)測定では主に表面形状や摩擦力のみの観察である。そこで本研究ではAFMに超音波振動子を組み込むことにより、高速で高いエネルギーを有する超音波振動等を利用したスクラッチが可能な装置を開発し、超微小な摩擦や摩耗現象、また、従来のAFMでは観察不可能であった内部ストレスやナノレベルのトライボ・ルミネッセンスといった新たなマイクロトライボロジー現象の観察を行う。 本年度の進行状況 SPM技術としてこれまでに開発してきたシステム技術を利用し、これと超音波振動子を組み合わせマイクロトライボロジーやマイクロ加工を目的とした装置を開発した。探針にダイヤモンドチップを用いることで振動状態でも安定したスクラッチ試験が可能であることを確認した。これを用いて新たなマイクロマシニング制御やマイクロトライボロジーへの応用を行った。振動を用いたマイクロスクラッチ摩耗実験では弱い荷重でも固い表面で切削できる技術を開発した。また反対に柔らかなポリマー表面の摩耗について、従来のAFMでのスクラッチでは表面が粘弾性のため、隆起することにより、ナノ加工が困難であったのに対して振動スクラッチでは、平らに制御性よく表面切削ができるナノ超音波切削加工を実現した。また。超音波振動子とAFMを組み合わせた超音波力顕微鏡を用いることでマイクロ摩耗面の高分解能な弾性測定も行い、隆起表面等の弾性が変化すること、またポリマー材料によりそれらの様子が異なることを明らかにした。
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