リソグラフィ技術を用いてアルミニウム薄板試験片に間隔20μm、太さ1μmの格子を描いた。そして、この試験片を用いて疲労試験を実施し、試験片に発生した疲労き裂の進展挙動を定量的に捉えることを試みた。ここで、き裂先端近傍に生じたひずみは、格子点の移動量から測定した。なお、き裂先端近傍の測定領域の画像は初年度に購入したズーム顕微鏡を用いてパーソナルコンピュータに取り込んだ。得られた結果を以下に要約する。 (1)疲労き裂の先端が、荷重軸に対して垂直に近い角度を有する結晶粒界に到達すると、その後、き裂は結晶粒界に沿って進展する傾向を示した。また、き裂先端が、荷重軸に対して小さい角度を有する結晶粒界に到達すると、き裂進展速度da/dNは著しく減少した。このとき、繰返し数の増加に伴い徐々にき裂先端が鈍化し、これに伴いき裂先端開口変位が増加した。さらに、ある程度き裂先端の鈍化が進むと、き裂は結晶粒界を通過し進展を開始した。 (2)き裂先端が結晶粒内に存在するとき、da/dNと応力拡大係数幅ΔKの間には両対数上でほぼ直線関係が成立することを明らかにした。 (3)き裂先端が結晶粒界に到達した時点でのき裂先端開口変位幅ΔΦ_tは、き裂が結晶粒内を進展しているときよりも大きくなる傾向を示した。き裂進展速度da/dNをき裂先端開口変位幅ΔΦ_tで整理した結果、両者の間には明確な相関関係は現れなかった。 (4)き裂先端が結晶粒界の近傍に位置したとき、き裂先端近傍にひずみ集中域が現れる傾向が示された。これは、き裂が結晶粒界に到達した後停滞し、これに引続き、き裂先端が鈍化を起こすため考えられる。一方、き裂先端が結晶粒内に存在する場合は、き裂先端近傍には、顕著なひずみ集中は生じなかった。
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