研究概要 |
本研究では,積層化された皮膜にX線回折法を用いることにより各層の結晶状態と残留応力を非破壊的に評価することを目的としている.平成11年度はPVD法の一種であるアーク放電方式イオンプレーティング(AIP)法により鉄鋼基板上にTiN皮膜を作成し,皮膜の結晶状態が基板および下層の結晶状態にどの程度影響されるのか調査を行った. まず,同じ鉄鋼材料ではあるが結晶構造の異なる2種類の基板上に成膜条件を変えてTiN皮膜を形成したところ,形成されるTiN皮膜の結晶状態は基板の結晶構造には影響されず,成膜時に基板に印加する負のバイアス電圧の影響により結晶の[110]もしくは[111]軸が基板表面法線方向に優先配向することがわかった.次に,下層に{110}もしくは{111}配向膜を形成し,それぞれの上層にさらに{110}および{111}配向膜が形成される条件で皮膜を形成したところ以下の結果が得られた. (上層および下層の結晶状態) 下層 上層 ({111}配向条件) ({110}配向条件) {110}配向膜-- {111}配向 {110}配向 {111}配向膜-- {111}配向 ランダム配向 以上の結果により,TiN皮膜を積層化したときの上層の結晶状態が明らかとなった.したがって,今後の予定としては積層化されたTiN皮膜の各層における残留応力評価を試みる.さらに,異種材料を積層化させた場合の各層の結晶状態と残留応力評価の可能性についても検討する.
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