ダイヤモンド状炭素膜は、優れた耐摩耗性・硬さを有し、しかも100℃程度の低い基板温度で合成することができるので、ハードディスクなどの機械摺動部の保護膜として最近飛躍的に利用範囲が拡大している。しかし、現在用いられているダイヤモンド状炭素膜はダイヤモンド構造をとる炭素原子の割合が最大で70%程度で他は黒鉛構造を有するアモルファスであるため、機械的な性質は十分であるが、耐水性、耐熱性、耐熱衝撃性等の耐環境性に問題がある。 本研究は、焼結ダイヤモンドをターゲットに用いたスパッタリング法を開発し、従来の合成法によるものに対して飛躍的に高品質なダイヤモンド状炭素膜を合成し、その結晶学的・機械的性質及び耐熱性を評価して最適な合成条件を明らかにしたものである。以下に得られた結果を述べる。1.焼結ダイヤモンドターゲットを高周波マグネトロンスパッタ法によりスパッタすることによりsp^3炭素種のイオンを基板に供給する機構を有するダイヤモンド状炭素膜合成装置を試作した。2.放電条件の影響を検討する。すなわち、ダイヤモンドをスパッタしたときに空間中で黒鉛に相転移することを注視し、雰囲気ガスの圧力及びガスの種類を変化させてダイヤモンド結合を有する炭素種を多く供給できる条件を明らかにした。また、基板に印加するバイアスの影響を調べ、これが膜と基板との付着力に対してどの程度の効果があるかを検討し、-70〜100Vのバイヤス電圧が適当であることを明らかにした。そして、各条件で合成された膜の結晶学的性質(特にダイヤモンド結合を有する炭素の割合)及び機械的性質をラマン分光分析、X線光電子分光分析、微小硬度計等により調べ、それらの結果を総合して適切な合成条件の範囲を求めた。得られた膜の可視光透過率は従来の黒鉛ターゲットの膜の4倍以上あり、一部をBとNで置換した膜は耐熱性にも優れていることを明らかにした。
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