研究概要 |
本年度は多方向滑りピン・オン・ディスク試験機を用いた摩耗試験を通し,生体内に含まれる生化学成分がUHMWPEの摩擦・摩耗に及ぼす影響について実験的に評価した。本研究では潤滑液にリン酸緩衝液を用い,これに血清タンパク質であるアルブミン及びγグロブリンを生理的濃度で加えることにより,これらの成分の摩擦・摩耗に及ぼす影響を評価した。また関節液と成分組成が近いと思われる希釈牛血清を用いた試験の結果と,先のタンパク溶液を用いた試験の結果を比較することにより,タンパク質以外の微量成分の影響を評価した。実験では摩擦及び比摩耗量を計測すると共に,FT-IRにより試験後のUHMWPE表面の組成分析を行い,潤滑液中の生化学成分とUHMWPEとの相互作用を検証した。さらに摩耗面の微細構造をAFMにより観察し,摩耗機構との関連を検討した。 一連の実験結果より,何ら生化学成分を含まないリン酸緩衝液中と比較し,タンパク溶液中では摩耗が増加すること,またタンパク質に加え脂質等の微量成分を含む牛血清中ではさらに摩耗が促進されることが示された。FT-IRによる分析では,生化学成分のUHMWPEへの取り込みが認められ,特に脂質の影響が大きい可能性が示唆された。更にAFMによる観察結果からも,摩擦面での生化学成分による主鎖切断と低分子量化の促進,それによる脆化と摩耗の促進というメカニズムが推測された。 これらの実験と平行し,血清を用いた生体模擬環境下でのセラミックスや耐食性金属等の人工関節材料の摩耗評価も行った。また位置決めテーブルを用いた多方向滑り摩耗試験機の製作も進めており,来年度はこの装置を用いて滑り方向変化の影響をより詳細に検討する予定である。
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