ヒト等の大形哺乳類の大動脈内の血流速度変動に心拍毎に乱流遷移が観察されることが報告されている。血液の乱流への遷移は、血液内でのO_2やCO_2といったガス交換やコレステロール等の物質混合が促進される反面、血球や血管壁に対する応力が大きく変化するため溶血・血栓・粥状動脈硬化などの原因と考えられている。モデル流路内に振動流を発生させ乱流遷移の検討を行ってきた。熱線流速計を用いた計測により周期的な変動を伴う振動流の乱流では周期毎にほぼ同位相において乱流への遷移現象が発生する。この時管断面内の遷移位相の違いを観察すると、壁近傍(ストークス層内部)でわずかに速い位相で乱流へと遷移するが、他の管断面内の領域では同時に乱流へと遷移するという定常流に於ける乱流遷移とは異なる非常に特徴的な現象が観察される。また、周期毎にほぼ同位相において遷移現象が発生することは、ある種の流れの安定性を示唆する可能性があると考えている。 実験的手法では乱流場中の数点のデータしか得ることが出来ず、流れ場全体としてどの様な遷移が発生しているかを検討するために、直接数値シュミュレーション(DNS)を適応した。計測結果の解析より最小渦径を決定し、計算時の最小メッシュサイズを決定した。その結果、現有の計算機資源(NEC SX-4)では3Dメッシュ(1200万)の場合の非定常計算は困難、2Dメッシュ(16万及び64万)で20秒程度の非定常のDNSを行うのに数ヶ月〜1年の計算時間を要する。しかしながら、これまでに30秒程度までの解析が終了した流動条件では、実際の計測と同じく周期的に乱流遷移発生し、断面内同位相で遷移する現象も観察された。流動条件を変化させることによる現象の変化も観察された。さらに流れ方向での乱流渦の発生、伸展なども観察できた。現在、計算結果と計測結果との統計解析に基づく比較検討をおこなっている。
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