本年度は、本研究で提案する樹脂ブレンド材料の選択加熱手法の実現性について、基礎的な検討を計算及び実験解析の両面から行った。 まず予備実験として、紫外可視分光光度計及びFT-IRを用いて、候補となる供試樹脂のふく射吸収特性の測定を行った。それとは独立して、様々な溶融温度及び歪み速度における樹脂粘度変化の測定も行った。その結果、ふく射加熱源としてYAGレーザを、試験的なブレンド材料として、ポリスチレンと低密度ポリエチレンを使用することとした。ただし、ふく射吸収係数に十分な差をつけるために、高粘度成分で分散相となるポリスチレンには予め炭素粉を1wt.%で混入した。 続いて、二次元の非定常伝熱計算解析により、様々なふく射強度下におけるポリスチレン相とポリエチレン相の温度変化を予測した。その結果、0.1〜0.2秒程度の極めて短いふく射照射により、直径100ミクロンのポリスチレン分散相のみが約20℃加熱されることが示された。この温度予測結果と粘度測定結果より、等温状態では2〜3倍あった供試樹脂間の粘度差がほぼ無くなることが推察された。 以上の結果に基づいて、押出成形を模擬した系に対し本手法の適用を試みた。すなわち、押出ダイ壁面の一部をふく射エネルギに対して透明なウインドウに交換し、その部分より190W/cm^2の強度でYAGレーザを導入した。実験では、3wt.%のポリスチレンをポリエチレンの中へ混合したものを用いた。ウインドウを介してポリスチレン液滴の変形を直接観察した結果、選択ふく射加熱により液滴の形状が劇的に変形し、そのアスペクト比は5を上回ることが明らかとなった。また得られた試料のポリスチレン相のモルフォロジを電子顕微鏡により観察した結果、直径200ミクロン程度の液滴が短径30ミクロン程度の細長いファイバーに変形したことが明らかとなった。
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